AI時代の法人営業を考える ― 全10回

第10回 AI時代の営業DXの進め方 — 戦略×AI活用の統合

作成者: 東城 拓治|Sep 30, 2026, 10:48:43 PM

読者の課題

「営業DXを進めているが、商談数は増えても売上が思うように伸びない」。この状態に陥っている企業は少なくありません。原因は、AI活用の順序そのものにあることが多いです。

結論

AI時代の営業DXは、ツール選定から始めてはいけません。
まず自社の受注予測精度を診断し、根本原因を特定した上で、拙著で提示した攻略目標・キーマン・3フェーズの営業プロセスという戦略の骨格を組織に定着させ、その骨格の中の「情報処理」に該当する部分にAIを組み込む、という順序が不可欠です。

定義

デマンドジェネレーション:見込み客を創出し、商談化につなげるためのマーケティング活動全般

受注金額の分解式:受注金額 = 受注平均単価 × 商談数 × 成約率、という関係式。営業DXの多くは商談数だけを増やそうとし、成約率という掛け算のもう一方の項を見落としがちである

営業DXが機能しない、よくあるパターン

拙著では、営業戦略を持たずに進める営業DXがいかに機能しないか、実際の事例を交えて説明しました。

多くの企業では、マーケティング主導で営業DXが進められ、SFAやMAといったツールの導入自体が目的化してしまいます。
デマンドジェネレーションの仕組みを整えれば商談数は増えますが、「商談は宝の山であり、商談が増えれば売上が増える」という考え方そのものが、実は誤りであるケースが少なくありません。

この構造は、AI活用にもそのまま当てはまります。AIによって商談数を増やすことにばかり注力し、成約率という掛け算のもう一方の項を見落としてしまう企業を私は数多く見てきました。
商談数を2倍にしても、成約率が半分に落ちてしまえば、受注金額は変わりません。

これまでの9回で見えてきたこと

このシリーズを通じて見てきたのは、AIが力を発揮する領域と届かない領域が、拙著で提示した営業の理論的な枠組みに沿って、驚くほど明確に分かれるという事実です。

受注予測の可視化、欠落シグナルの検知、提案資料の生成といった「情報処理」の領域では、AIは既に実用段階の力を持っています。
一方で、顧客の本当の感情を読み取ること、顧客内の非公式な影響力を持つキーマンを見つけ出し関係を築くこと、契約交渉における信頼を背景にした駆け引き、そして組織文化とタレントマネジメントという土台づくり。

これらの「人を理解し、関係を築く」領域には、現時点のAIは届きません。
これは偶然の一致ではなく、拙著で述べた「プロセスだけでは組織は変わらない」という主張が、AI時代においてもそのまま通用することの証左だと考えています。

営業戦略×AI活用の統合とは

では、AI時代における営業DXの正しい進め方とは何でしょうか。
それは、まず自社の営業組織における受注予測精度を診断し、正確な予測ができていない根本原因を特定することから始まります。

その上で、拙著で提示した攻略目標・キーマン・3フェーズの営業プロセスという戦略の骨格を組織に定着させ、その骨格の上でAIをどこに配置すれば最も効果的かを設計していくという順序です。

AIを先に導入してから、それに合わせて営業戦略を後付けするのではありません。

現場の実績(匿名事例)

拙著の6章で紹介した営業DX改善事例でも、最初に着手したのはツールの選定ではなく、受注予測精度という診断軸を使って、どのフェーズで、なぜ商談が失われているのかを特定することでした。
ある建材商社では、この診断から着手した部門は1年で受注金額が23%増加したのに対し、先にマーケティングツールとAI SDRを導入した別部門では、商談数は1.8倍に増えたものの、成約率が半減し、受注金額はほぼ横ばいという結果に終わりました。
同じ予算規模の投資で、これほど結果が分かれた例を、私は他にも複数見てきています。

私はこう考える

デマンドジェネレーションによって商談数を増やすことと、受注予測精度によって商談の質を見極めることは、車の両輪です。
どちらか一方だけを強化しても、営業組織全体としての実行力は上がりません。

AI時代の営業DXにおいても、この両輪のバランスを意識できているかどうかが、投資が実を結ぶかどうかの分かれ目になります。
改善は一度取り組んで終わりではなく、道半ばであることを前提に、継続的に見直していく姿勢もまた欠かせません。

AIという道具の進化はこれからも止まらないでしょう。
しかし、その進化のスピードに振り回されるのではなく、自社の営業組織にとって何が本質的な課題なのかを見極める軸を持つことこそが、経営者にとって最も重要な仕事であり続けると私は確信しています。

AIの実力早見表

進め方 典型的な結果 理由
診断→戦略の骨格定着→AI配置(推奨順序) 受注金額が着実に増加する傾向 根本原因に沿ってAIが投入されるため
ツール導入→戦略は後付け 商談数は増えても成約率が低下しがち 商談の質を見極める骨格がないままAIが稼働するため

チェックリスト

  • AI・DX投資の前に、受注予測精度の診断を行っているか

  • 商談数の増加だけでなく、成約率の変化もセットで追えているか

  • 攻略目標・キーマン・3フェーズという戦略の骨格が、組織に共有されているか

  • 改善施策を「一度きり」ではなく、継続的な見直し前提で設計しているか

FAQ

Q. 営業DXは、何から始めるべきですか?
A. ツールの比較検討からではなく、自社の受注予測精度がなぜ低いのかという診断から始めることをお勧めします。

Q. AIによる商談数の増加は、無意味なのでしょうか?
A. 無意味ではありませんが、成約率という掛け算のもう一方の項を同時に見なければ、受注金額の増加にはつながりにくいという点に注意が必要です。

Q. このシリーズで紹介した考え方を、自社に当てはめるにはどうすればよいですか?
A. まず自社の受注予測精度を診断し、拙著の理論的な枠組みと照らし合わせて、どこにギャップがあるかを特定することから始められます。

次にすべきこと

自社の直近1年間の「商談数」と「成約率」の推移をそれぞれ別のグラフで確認してみてください。
商談数だけが伸びて成約率が下がっている場合、AI投資の順序を見直す好機です。

「AIを導入すべきか」ではなく、「自社の営業組織のどこにAIを使うべきか」を明らかにしたい企業には、受注予測精度を起点とした営業組織診断を行っています。

10回にわたるこのシリーズを通じて、AIに何ができて、何ができないのか、拙著の理論的な枠組みに沿って具体的に見てきました。
AIは営業組織にとって、非常に強力な武器になり得ます。
しかし、その武器を正しく使いこなすためには、まず自社の営業戦略という土台がしっかりと整っている必要があります。このシリーズが、自社の営業組織を見つめ直す一つのきっかけになれば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
株式会社Csvisionコンサルティング 東城 拓治

 

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