持続的成長するための営業組織マネージメントフレームワーク ~序文:法人営業組織マネージメントに欠かせない3つ~

私は今までITトップ企業4社で営業組織のマネージメントを経験してきました。それぞれの企業が扱っている商品もバラバラであり、最先端のテクノロジーからコモディティ商品まで幅広いものでした。そのため経営戦略、ターゲット顧客やソリューションも違うことから営業活動も違うものでした。しかしこの4社の経験でわかったことは、営業組織のマネージメントの基本部分には違いがないということです。扱う商品やサービスが違っていましたが、どの企業も営業組織が目指すことは同じであり、それを達成するためにするべきことに変わりはありませんでした。営業マネージャーがどのように組織マネージメントをしていけば営業組織が成功できるのか、それを伝えられればと考えています。

営業は企業業績のトップラインを引き上げる仕事をしています。既存顧客を維持し、長期関係を築き、安定的に収入を得ることも重要ですが、ここに軸足を置いていては成長することはできません。逆に衰退していきます。
考えてみてください。外部圧力により市場は今までにはないスピードで変化し、DXが進むことで新規参入や異業種参入の障壁を下げ、従来までの市場に大きな変化を与えています。それは既存顧客の市場シェアにも影響を与え、売上額が減少し、その結果、従来の売上を維持することも難しくなっています。
売上を維持しさらに成長していくためには、新規取引を拡大していくしか方法がないのです。

それでは新規取引を拡大するミッションを持っているのはどの部署になるのでしょうか。
それは営業組織です。なぜならば、営業組織が売上げ数字という目標を持ち、その結果により評価される唯一の部門だからです。しかし多くの営業組織は売上げという目標に焦点を絞って活動が行えていないのが現実です。既存顧客との取引維持や関係維持、トラブルがあれば顧客との窓口に立ち解消するなど、本来の営業活動以外の様々な業務をこなしています。
確かにこうした活動は顧客との信頼関係を構築するためには必要な活動です。売ったら売ったきり、トラブルがあっても満足な対応が行われない、これでは取引先から切られることになります。そうならないために営業が対応するしかないというのが、多くの営業マネージャーの考えです。しかしこれらの業務は他部門でも行うことは可能です。しかし新規顧客を獲得する、既存顧客から新たな取引を獲得する活動は、営業部門でしか行うことはできません。

なぜならば、このミッションを持っているのは営業組織だけだからです。

それぞれの組織には企業活動に対しての責任があります。そして営業組織は企業目標である売り上げ数字を達成するという責任があります。
この責任を全うするために何を実行し結果を出すのか、それが営業マネージャーに求められている責任です。
そしてその責任を全うするためには新規顧客を獲得しトップラインを引き上げることに焦点をあてた活動、そのための営業組織マネージメントを実行することが必要となります。

それでは新規顧客を獲得しトップラインを引き上げる、それを可能にする営業組織マネージメントに必要なこととは何でしょうか。
それは以下の3点になります。

  1. (新規顧客開拓を進める)営業組織文化とリーダーシップ
  2. (新規顧客開拓のために必要な)スキルと人材
  3. (新規顧客開拓のための)営業戦略とプロセス

営業組織を管理するマネージャーが新規顧客獲得に焦点をあてた営業組織マネージメントするためには、この3点のどれが欠けてもできません。そしてこの3点のどこから手を付けるかというと営業戦略からになります。
それは営業組織に身に着けてもらいたい文化やスキルを示し、マネージャーが実行するためのリーダーシップを発揮するには、営業戦略を介して営業組織に理解してもらう必要があるからです。
どのような戦略でどのようなプロセスを経て新規顧客を獲得し目標達成するのか、その戦略を実行するために必要なスキルと人材とはどのようなものか、そして実行するために一人一人が変わってもらいたい、変わる必要がある組織文化とはどのようなものなのか、この順番で営業組織に腹落ちしてもらうことでリーダーシップを発揮することができます。
しかしこのリーダーシップを多くのマネージャーは迷いが生じ、発揮することができていないのが現状です。

結果を出し続けることができていれば、迷いは生じることはないと思います。しかしほとんどの営業組織が結果を出せずに苦しんでいます。

  • 来年度の成長プラン作成を求められても未達であった前年プランと変わらない営業戦略
  • 成長が鈍化あるいはマイナスになってきているが、担当を変えるリスクを冒せないため、変わらないリソース配置
  • そもそも何にリソースを集中させれば目標数字を達成できるのかがわからないことによる、小手先だけの集中戦略
  • 数字が達成できない根本原因は何なのか、どうすれば結果が出せる改善ができるのかがわからないままの組織運営

会社から与えられた目標を達成するために責任感を強く持ち、何とか解決案を見つけたいと考えているが見つけられずに苦しんでいる、多くのマネージャーがいます。そして最も深刻なのは、営業マネージャーが自信を無くし、ネガティブな思考に陥っていることです。営業マネージャーができないと考えていることは絶対にできません。
営業マネージャーが自信を持ち、それを実行すれば必ず結果が出せる、そう考えられる何かが必要であり、それが先ほどの3点になります。

そしてこのような営業マネージャーの苦しみを冗長しているのが、IT活用による営業の「見える化」です。営業組織のIT活用に決して異を唱えているわけではありません。逆にマネージメントする上でIT活用は必要だと考えています。
しかしエグゼクティブまでリアルタイムで見ることができる販売予測や活動状況、そして活動結果が可視化されることで見えてくる表面上の問題点。管理部門は定期的に営業活動を分析するよう求められ、きれいな表やグラフにまとめ、問題点は指摘するが解決策を提示しない。対前月、対前四半期、対前年を比較し、何が良くなり何が悪くなったかを時系列に示し、十分な因果関係を示さずに指摘する原因。それにより、

  • 数字が達成できないのはパイプラインが少ないからではないか。もっとパイプラインを作る活動をチームメンバーにさせなさい。
  • 君のチームは同じステージで停滞している商談が多い。営業にステージをあげる活動をさせなさい。そしてもっと同行してステージを上げるサポートをしなさい。
  • なんでこんなに訪問件数が少ない。これでは数字を作れるわけがないだろう。最低でも1日5件、1週間で25件訪問させなさい。顧客に会うことは営業の基本。それもできないのだったら営業の意味がないだろ。

「見える化」によりこのような個別指摘が入り、営業マネージャーは混乱に陥ります。数字が未達の根本原因を把握できていれば改善案を出すことで進むべき道を進むことができます。しかし、それがわからないため、指摘されたことをただ単に現場に落としている営業マネージャーがほとんどです。そうなると現場はやらなければいけないことが増え、戦略がないまま色々なことを実行させられ疲弊していきます。
たとえ疲弊したとしても結果が出るのであれば良いですが、結果が出ないのが通常です。そうなると益々、営業マネージャーは困惑していきます。
こうした現象は責任感が強いマネージャーであればあるほど指摘されたことを行うため、最後には組織崩壊を起こす確率が高くなります。
これが「見える化」による弊害です。

そしてこの状況に輪をかけているのが「専門家」と言われる人たちの言葉です。
最新の購買プロセスの知見、ツールを導入しプロセスを取り入れることで業績がアップできるというソリューション、ITの普及により従来のやり方を変えなければ取り残されてしまうことを示唆するようなデータや情報、新しいセールスモデルや営業プロセスの紹介など、多くの情報が氾濫し、経営者や営業マネージャーを惑わしています。しかも「専門家」はデータを活用した情報を提供しているため説得力を感じ、一理あると判断して取り入れてしまうことも多くなっています。
特に営業に問題があると感じるが解決法がわからないといった場合、少しでも当てはまるとデータに騙され取り入れてしまう、これでは現場は混乱します。

これらはすべて営業マネージャーが、確固とした営業組織マネージメントフレームワークを持っていないことが原因です。
営業組織が新規顧客を獲得し売上成長を実現する、これは営業組織の問題であり、その問題を解決するのは営業マネージャーの仕事です。
更に言えば、新規顧客を獲得し売上成長を実現する仕事をする、これが営業の仕事であり、このことに集中することが営業のミッションです。
営業組織が持続的成長できずに混乱をきたしている原因は、営業マネージャーの組織運営が問題なのです。
営業マネージャーが迷わず組織運営ができるようになることで、営業組織は成長軌道に乗せることが可能となります。

今、これを読まれている方は、成熟期に達した商品サービスを提供している経営者もしくは営業管理職の方かもしれません。あるいは起業して数年がたち、成長期に入り、更なる飛躍を目指している創業者あるいは創業メンバーの方かもしれません。
成長期、成熟期、衰退期、それぞれにおけるマーケティング手法は違うかもしれませんが、営業組織のマネージメントに大きな違いはありません。
成長期にある企業であれば営業マネージャーを育てていくための参考にしていただき、成熟期、衰退期にある企業であれば、営業組織の基本に立ち返るための参考にしていただければと考えています。

これから数回にわたり、持続的成長を可能にする営業組織マネージメントフレームワークとは何かを紹介させていただきます。
まずは第一章として数回にわたり、営業組織マネージメントでどのような問題が起こっているのかを紹介させていただきます。
その後第二章としてその問題を解決するために必要なことを記したいと思います。
成長できる営業組織マネージメントに妙薬はありません。大切なことは基本に立ち返り、基本をぶれずに実行することです。
このコラムが営業組織マネージメントについての気づきの提供ができればと考えています。

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