持続的成長するための営業組織マネージメントフレームワーク~第一章:なぜ、営業組織は結果を出せないのか~ 2. 管理に動けば動くほど、管理に埋没する営業マネージャー

営業の世界にもIT化が進み、MA, CRM, SFAなど多くのツールがあります。
見込み客がどのホームページにどれぐらい滞在し、その後、どのような情報を見てWebセミナーにアクセスするか、問い合わせの申し込みをしたか、資料をダウンロードしたのか、このような行動がスコアリングされ、見込み客の有力候補度合いを測り、タイミングよくコンタクトを行う。

営業は見込み客の行動を知ることができ、顧客が興味を示していた情報から解決したい課題を推測することができ、推測した課題を用いてコミュニケーションを行い、商談に持ち込む。
こうしたアプローチによりリードから見込み客となり、その後の商談推移を入力し、商談管理が進んでいきます。

商談管理では活動を入力し、追跡し、報告し、管理することにITを活用することで効率的になってきていると考えられています。
しかし果たしてそうなのでしょうか。営業マネージャーは管理により身動きが取れなくなってはないでしょうか。

「見える化」の功罪

Excelで営業データを管理していたころに比較して、営業の活動は画期的に「見える化」が進みました。これにより売上予測も行いやすくなり、今年度の着地予想、来年度の商談仕込み状況まで見えるようになり、経営層はデータを予測に活用できるようになっています。

従来までは営業マネージャーによる報告で実施されていた売上予測は、データをいつでもどこでもリアルタイムにチェックができるようになり、すぐさま予測通りの着地が可能かどうかの判断、着地予想が悪い方向に動いた場合は、すぐさま問題の把握ができ、原因を特定することが可能です。Excelで管理をしていた時には考えられない進歩です。

一方でこうしたツールを導入しても売上予測会議は変わらずに行われているのが現状です。初期報告時の商談数だけでは目標数字に足りないことからくるマネージャーのストレッチ報告、商談確度の入力が営業担当者の主観により入力されていることからの予測精度の不確実性などが主な理由です。
このため営業マネージャーは商談確度を客観的に評価するために担当者へヒアリングを行い、ヒアリング内容を反映したマネージャー予測を報告します。こうした方式を取ったとしても初期の予測と着地にはギャップが生じているのが実情です。

そのギャップも計画値から増加する良いギャップ?であればいいですが、マイナスのギャップが増加すると経営層は焦ります。もっと正確に未来を知り、未来に大きく影響を及ぼす前に予兆は捉えられないか、そのために営業の活動状況を知る必要があると考えます。
そのためにはより詳細な情報が求められます。営業組織が持っているパイプライン量と滞留時間の推移、訪問社数や見積提出件数と営業プロセス進捗状況と相関分析や因果関係分析、面談記録や次の訪問予定とゴール設定など、営業が入力することが増やされていきます。

しかし商談記録では、
「担当者と面談し、顧客ニーズの把握を行う。納期問題が発生したことから今回は納期を重視して検討するということ。そのために複数社と比較検討をしたいとのこと」
「提案を実施。感触は良く、後日、結果をいただけるとのこと」
「部長と面談し、選定状況を確認。まだベンダーの絞り込みはできていないとのこと」
「最終見積りを提出し、提示価格の感触を確認。高くもなく安くもないという評価」
時系列にこのような文言が並ぶ報告、これでは内容が不明だから次アクション含めもっと細かく書くように指示を行う、しかし細かく書くようになるがそれでも不明点が出てくることから口頭での確認、結局のところ営業にとっては日報を出そうが確認が入る面倒くささ、そしてなによりも確認はされ、確認不足は指摘されるが受注に向けての確かなアドバイスがもらえない、担当者は不満が積もります。
一方のマネージャーはアドバイスをしたいが、報告では商談を優位に進める戦術が判らず、苛立ちが積もる日々。

このような経験をしているマネージャーが多いのではないでしょうか。

混乱したマネージャーは藁をも掴む

一方で入力項目が増え、営業管理部などでデータ分析レポートが週次で配布されるようになり、組織の問題点を指摘されることが多くなります。レポートではKPIが複数並び、営業部ごとの達成未達が一目でわかります。
未達項目が多いと経営層からは叱られ、担当者が入力していないなどの報告をするとそんなことも管理もできないのかと火に油を注ぐ様な事態です。
そして未達のマネージャーには経営層のKPIチェックが厳しくなってきます。

目標数字の未達が一番の問題であるにもかかわらず、営業に管理項目の入力と管理目標の達成を徹底するようマネージャーは指示します。
こうなると最悪です。営業マネージャーは日々、営業が入力をしているか、管理項目が達成されているかチェックを行い、未達の営業になぜできていないのかを問いただします。
営業マネージャーが責任を持つべき売上数字、その数字が達成できないのは管理項目が未達であるからだという経営層からの指摘(決してそうではないと思いますが)、そのようになると営業マネージャーは自らの頭で考えることを放棄し、管理項目を達成することに邁進します。
どうせ数字が未達になるのであれば管理項目ぐらい達成しておこう。こうした安易な考えが生まれてくるのです。

現場の担当者にとってはたまったものではありません。営業とは数字という結果を出すことと考えていたのが、結果を出す以前に管理項目を達成することに主眼を置かれるのですから。そしてその管理項目を達成すれば結果を出せるのであればやる価値もありますが、そうではないことがより不幸を生みます。

少し大げさに書かせていただきましたが、多少なりとも現実に起こっていることと思っています。そして、このような事態を招いているのは営業マネージャーの資質の問題ではないかと思われる方もいるかと思いますが、経営層によってこうしたマネージメントが行われてしまうことにも問題があります。

CRMやSFAの解決しなければいけない問題

営業マネージャーが集中すべき、営業がより効率的に商談を前へ進め、より効率的に成約するための手助けをする仕事ではなく、CRMやSFAに機会や進捗を迅速に入力し更新することを重視して管理する、マネージャーの本来の仕事を見失ってしまうことが管理強化により発生しています。

そして、この管理は結果を出すことにプライド持っていた営業のモチベーションを下げることに繋がり、営業マネージャーと営業の分断を作ることになり、優秀な営業が離職することに繋がります。

なぜならば、優秀な営業ほど自分の仕事に誇りを持ち、管理されることを嫌がるからです。仕事はして報告も結果も出すが、管理されずに自分の計画で進めたいということです。

このようなことが起きる理由はたった一つです。CRMやSFAが営業の役に立つツールになっていないことです。入力し分析され、それにより結果が出せる行動に繋がる活用がほとんどなされていない、そもそもそのような活用ができないのが今の仕組みなのです。そのことを考えることが必要です。

いまのような誰が売れそうか、誰が売れないのかといった未来の予測管理のためだけではなく、未来を変えるために、営業活動を助けるために活用する方法を問うべきではないでしょうか。

そして管理ではなく営業組織が結果を出せる仕事をマネージャーにさせるべきではないでしょうか。

営業マネージャーがリーダーシップを発揮し、この問題に取り組むことが重要だと考えます。

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