経営者が解決したい法人営業課題:最終回その2 リモートセールスにおける新規顧客へのクロージング

2020. 07. 27

前回は見込み客の開拓について書きましたが今回は、リモートセールスにおける新規顧客へのクロージングです。

これについても相談が多く、緊急事態宣言前から営業活動をしていた新規顧客へクロージングを行うがリモートセールスではうまくいかない、なぜなのか、どのように改善すればよいか、アドバイスを欲しいという相談が増えるようになりました。

具体的には、検討時の反対意見への対応や交渉、競合の排除など、クロージングのために必要な購買ステークホルダーとの合意形成がうまくいかないのが原因と思われます。

このようなクロージング課題に対してどのようなアドバイスをしているかを紹介させてもらいます。

リモートセールス、非対面によりクロージングの難易度が上がった理由

空気が読めない

訪問して営業活動をしてきた場合との大きな違いは、面談を繰り返し、顧客との双方向コミュニケーションを探りながら進められたことが、リモートセールスではうまくいかないことが問題になっています。

うまくいかなくなった理由として多くを占めているのが、表情などから読み取れた相手の理解度や考えがリモートセールスでは読み取りづらくなったことが原因であると説明しています。

俗にいう空気が読めないということです。

空気が読めない中でのクロージング

空気が読めない不確かな商談下、しかし自分としては顧客に十分に理解を得られたと感じ、「では、弊社で決めていただけますか」と発言したとします。
この後、しばらく誰も発言せずに沈黙となり、少ししてから「いや、もう少し検討したほうがいいな。どうするかは改めて連絡します」と言われたとします。

何が足りないのか、どのような情報を提供する必要があるのか、顧客に聞きますが「いや、また連絡させてもらいます」と一蹴されるとどうでしょう。

面談であれば発言をされた方に資料を示しながら、「この提案のどこに問題がありますか?懸念に思われる点はどこですか?」と確認することができます。
しかしリモートセールスでは、相手を見ながらこのような対応ができません。
空気感も読めないので参加者全員が反対しているのか、発言者だけなのかもわかりません。
顧客からの反論の理由も対応もできずに簡単に面談が終了する、これがリモートセールスです。

この経験により営業はこれ以降、思い切ったクロージングができなくなってしまいます。
クロージングにより相手の考えや検討状況を把握していた訪問営業時のテクニックが、リモートセールスでは通用しなくなっています。

クロージングを難しくしている二つの原因

訪問している時と同じように説明を行い、確認や反対意見に十分な説明を行い、確認して進めているが、モニター越しという限られた空間下での相手の理解度を確認することの難しさ、これが一つの原因としてあげられます。

そしてもう一つが、顧客内でもみんなが十分に理解できているのか、競合と比較していいね、あるいは劣っているなといった個人が感じている感覚が、顧客同士もリモート越しであるため、お互いに読み取れていないことが起きています。
そのため、その場でクロージングに対して結論を出せず、終了後に顧客だけでミーティングを行い、コンセンサスのための場を設け、意思統一を顧客もリモートで行っています。

しかし顧客も空気を読めない場で行っているため、上司が何を考えどう判断しているのかが見えなくなり、コンセンサスがうまく行われておりません。

これが「クロージングが難しくなった」と言われている原因です。

そしてこのことにより訪問セールス時に比較してリモートセールスはクロージングが長期化するようになってきているのです。

インサイドセールスのノウハウを活用するという、間違った考え

打破するためにクローズアップされるインサイドセールス

インサイドセールスを活用して生産性をあげているというアメリカでの事例などからコロナ渦で注目を浴びています。

インサイドセールス

しかしインサイドセールスとフィールドセールスには違いがあります。

インサイドセールスは、顧客が必要としている情報を的確にインプットし、顧客の理解を手助けすることに力を注ぎます。疑問に思うこと、それにより得られる効果など、顧客からの問いに的確にこたえられることが必要になり、その活動によりリードを見込み客に育成していきます。

そしてこの活動をオンラインを活用して行うことがインサイドセールスの業務になります。

フィールドセールス

一方でフィールドセールスは、顧客との交渉がメインになります。ほとんどの商談で競合があり、競合より自社のほうが顧客の期待する効果が得られる、あるいは優位性が高いといったことを理解させ、その上で今度は契約までの交渉を行います。

この交渉はすべての商談プロセスで行われ、営業は購買プロセスの次のステップへ進めるためにクロージングを行っていきます。

インサイドセールスとフィールドセールスの違い

このクロージングを行うことが、インサイドセールスとフィールドセールスの大きな違いであり、インサイドセールスのノウハウだけではオンラインセールスがうまく機能しない理由になります。

クロージングという行為の難しさ

クロージングとは

クロージングというと契約を締結する、すなわち成約時に行うものと思われがちですがその考えは間違っており、一つ一つの購買プロセスを自社が優位に進むための同意を得る行為というのがフィールドセールスにおけるクロージングとなります。

このクロージングはヒアリングなどにおける課題の確認やその解決法、プレゼンテーションにおける内容の合意など、相手が一人から多人数いる中で行われます。

そして相手の心の動きや雰囲気から空気を読み、次の一手を出し、自社が望むクロージングに持っていくのがフィールドセールスの大切な業務となります。

顧客との理解度を深めるすり合わせ

何故、相手の心の動きや空気を読むことが必要かというと顧客はすべてを語らないからです。

疑問に思うこと知りたいことをこちらの提案から確認などを行っていく過程で、顧客は自らの考えをまとめていきます。

そのときに発生する部長の目配せ、こちらの回答に対する同席者の表情、こうした反応を敏感に察知し営業は理解度の確認を取っていき、特に間違った理解をしてもらいたくない部分については違う表現で理解度を再チェックするまで行います。

このような活動で営業は顧客との理解度を細かくすり合わせをしていき、プロセスを進めています。

流れるようなうまい説明ができ、顧客への訴求が非常にうまいが売れない営業は、このような空気を読んで営業を進められないことが理由です。

既存顧客では相手との関係性があることで読めない空気を確認することができ、プロセスを進めていけますが、新規顧客では関係性がないためそれができず、空気を読めないことがクロージングを難しくしている原因なのです。

オンライン下でクロージングを行えるようにするために

相手の考えや心の動きが読めないことが営業活動の敷居を高めていることが判ったと思います。

そして解決策は、相手の考えや心の動きを読めるようにするためにどうするかです。

面談でも難しかったことをオンラインで読めるようにすることは不可能だと思います。

ではどうするか。

コロナ以前から存在している営業戦略の一つである、顧客に教えてもらえるルートを作ることです。

既存顧客でもすべてのステークホルダーと関係性が築けているわけではありません。築けていない担当者の動きを知るために関係を築いている人に聞き、教えてもらうことで対策を取っていたのではないでしょうか。

それと同じように新規顧客でも担当者から教えてもらうようにすればよいのです。

そしてその担当者はまずは一人作ればよいと思います。

その人を見つけ、商談初期段階では関係性を築くことに力を注ぎそして関係構築し、その人を起点にしてステークホルダーにペネトレーションしていく、そのための戦略を計画し実行展開していくのです。

そのような人が作れていれば、自社の特徴やソリューション、事例などを紹介した後で、部長の評価はどうでしたか、何が足りていないと感じているようでしたかなど、評価に基づいた次の手立てを組み立てていくことができます。

そしてその人が決裁者とコミュニケーションを取れる方であれば、自社に変わりソリューションを説明してもらい、正しい理解へ営業してもらうこともできます。

このアドバイスをした時に

「そのような人物を開拓できれば苦労がないですよ。」

と最初は否定されます。

その時に質問するのですが、

「顧客内で自社の製品を推薦する人が誰もいなければ、その顧客に売れますか?」と尋ねます。

答えは決まって、

「売れません」

「では、自社の製品に好意を持っているのではないかと思う人は、見分けられますか?」

「話しているとなんとなくわかります。」

「その人と良好な関係を築いて、少しずつでも顧客内の情報を取ることはできないですか?」

「・・・確かに・・・小さなことですが、教えてもらったりしています。」

「それを大きくするためにどうするかを活動に加えると、多くを知ることができると思いませんか?」

「確かにそうですね。」

「そのためには教えてもらえる関係性を築く必要がありますが、関係性を築ける人と築けない人を見分け、情報を提供してもらえる方法を営業活動に加えられたら、クロージングの課題を少しは解決できるようになると思いませんか?」

「はい、そう思います。」

「その上で関係性を築けた人がキーマンであれば、クロージングの課題を完全に解決できませんか?」

「確かに、キーマンから様々な情報を得られるのであれば、購買プロセスを確実に迷わずに前へ進めていくことができると思います。」

これは20年前からある営業戦略理論であり、キーマンにはチャンピオンやコーチといった名称と定義が行われ、今でもトップ企業で活用されています。

日本の企業では一般化していないもしれないですが外資系、特にソリューション営業を実践している企業では一般用語として使われています。

用語の細かな説明は省きますが、リモートセールスが常態化していくと益々、キーマンとの関係性構築による営業活動の重要性が高まると考えており、この考えを営業戦略に落とし込み実行する企業が生き残れるのだと思います。

まとめ

クロージングを難しくしている原因が顧客の心理的動向が見えないこと、解決法は見えないことについては情報を取り、適切な対応が行える仕組みを作ることと理解いただけたと思います。

そしてそのような仕組みを効率よく回すためには、IT活用も必要になります。

しかし経営者の解決したい課題シリーズでIT利活用による解決法を提示してきませんでした。
決してITの活用が必要ないとの考えからやIT知識が少ないというわけではありません。
私の経験は外資系のITトップ企業ですのでむしろ知識は豊富で経験も積んでいます。

しかし課題を解決するためには練り上げられた戦略を構築する必要があり、構築された戦略を効率的に実行するために活用するものがITであるという考えを持っているからです。
ITありきで練り上げたものはうまくいかないと考えているため、考え方や活動方法に重きを置いて紹介しています。

今回紹介したキーマン攻略もCRMSFAの活用により組織内で効率的に進めることは可能となります。
しかし戦略を作り実行計画と達成目標を明確化しないで導入しても、効率化はできても生産性向上(成約という達成)にはつながらないことは明らかです。

まずは自社の「売る機能」を見直し、市場に適合していくために必要な戦略は何かを洗い出す。
その上でその戦略を構築し実行計画まで落とし込みを行い、並行してIT戦略を立て、IT利活用により効率化を計っていく。

弊社はこうした考え方により企業の「売る機能」を支援できればと考えています。

目次